普段着として着物を着用する機会は極端に減少している近年ですが、結婚式や成人式などの晴れの日には、留袖や振袖などを着用したことがあるという人も多いのではないでしょうか?特に最近では、日本の美しい文化の一つとして『着物』が世界中から注目されていることもあり、格式の高い式典などでは和装で出席する人が増加していると言われています。
特に留袖や振袖はその代表といえ、今まで着物を着用したことが無い人でも、そういった種類の着物があるということぐらいは知っているのではないでしょうか?しかし、着物の難しさといえば、前述しているように、『留袖』『振袖』『訪問着』などと、同じ着物でもさまざまな種類があるということです。そして、振袖は未婚者の人が着る、留袖は既婚者が着るといったように、それぞれの着物に関して仕来りのようなものが多く存在しているのです。近年では、昔ほど着物の仕来りも煩く言われなくなったとはいえ、それぞれの着物に込められた意味ぐらいは将来のためにも知っておいた方が良いと思います。
そこで今回は、着物の中でも特に着用されることが多い、振袖と留袖の違いをご紹介してまいります!
振袖と留袖の格式
まずは着物を着用する際には、必ずおさえておきたい『着物の格式』について触れておきましょう。普段の生活の中であれば、あまり服装の格式などを気にすることはないかもしれませんが、着物には種類によって異なる格式があるのです。そして、その格式によってTPOをわきまえて着用する着物を決めなければいけないものなのです。
着物の格式の種類としては。「第一礼装」「準礼装」「略礼装」があり、第一礼装が最もフォーマルで、略礼装が最もカジュアルな着物という扱いになります。どういった風にTPOをわきまえて着物を選ぶかの例をあげると、
- 近親者の結婚式などでは第一礼装を着用する
- 格式が高いパーティや結婚式では準礼装で出席する
- 入学式、卒業式、お茶会などであれば略礼装を着用する
といった具合になります。ただし、近年ではそこまで厳格に着物の格式を知っている人も少ないので、気にしない人も多いと思います。
それでは「留袖と振袖の格式はどうなの?」というと、どちらの着物も『第一礼装』に当たるものです。したがって、最も格式が高い着物となるので、冠婚葬祭などであれば主催者側が着用する着物となるのです。
これまでの説明で分かるように、格式の点で見れば、留袖と振袖は変わりなしということです。
既婚と未婚で制限がつく理由は?
着物の格式に関しては、上述の通り、留袖も振袖も同じで「第一礼装」に当たります。しかし、冒頭でご紹介したように、この二つの着物は『既婚』と『未婚』で着分ける必要があるのです。
それでは、「留袖は既婚者、振袖は未婚者が着る」というようになったのはなぜなのでしょうか?
留袖は既婚者が着る?!
そもそも留袖というのは、振袖の長い袖を短く切って立て直し、身八口で縫い留めた着物のことをさしており、江戸時代に未婚女性の象徴である振袖を短くする事で、大人になったという事を表す習慣から広がりました。
そのため元々は、既婚者だけではなく、18歳になると留袖を着せさせ「大人の女性になった」との成長を意味していました。また、江戸時代は袖が短い方が動きやすく、既婚女性の普段着として留袖が使われていました。そんな機能的な面もあり、留袖は既婚者が着用するという文化になったのです。
ここまでで、留袖は「大人」が着るものであるということまでわかりました。しかし、なぜ振袖を既婚者が着てはいけない…とされるようになってきたのでしょうか?
その謎に迫るにはこちらも江戸時代まで遡ります。当時、踊り子の風俗を真似る事が未婚女性の間で流行しました。真似られた所作というのが、袖を振る事で愛情を示し、袖にすがる事で哀れみを乞うといったような恋愛観を表すものだったそうです。袖を振るうためには長い振袖の着物が適しており、振袖を着てこのような真似が行われていました。しかし、既婚者は袖を振って他の男性に愛情表現をする必要がないですし、そもそもそういった振る舞いは良しとされてきませんでした。
上記のことから、振袖は未婚者が着るもの、留袖は既婚者が着るものという今の分け方が生まれてきたと言われています。なかなか面白い話ですね。
留袖の中でも格式が分かれる
先程、留袖は第一礼装と申しましたが、実は同じ『留袖』の中でも、紋のつき方や色などで格式が変わってくるのです。
まず、色で見る格式の違いです。一般的に『留袖』という時には、地色が黒色のものを指すのですが、地色が黒以外のカラフルなものもあるのです。そういった留袖は『色留袖』などと呼ばれ、通常の留袖より格式が落ちるのです。
「黒留袖」>「色留袖」
使用例で言えば、地色が黒色の留袖は、結婚式などで、主催者側が着用する着物となります。わかりやすく言うと、新郎新婦の母親などゲストを迎える立場であれば『黒留袖』が最も適していると言えます。新郎新婦の兄弟や姉など、親族や親戚であれば、色留袖が晴れの日に持っても適していると言えます。そして、招待されてゲストとして出席する場合には、黒留袖はNGです。以下で紋について紹介しますが、三つ紋以下の色留袖であれば、ゲストの方が着用しても格式的には問題ありません。ただし、色留袖だと、どうしても親族と思われる可能性がありますので注意しましょう。
次に、紋の種類による格式の違いです。紋の違いによる格式は以下のようになっています。
「五つ紋」>「三つ紋」>「一つ紋」
紋が多ければ格式が高いと覚えてもらえると簡単です。上記の結婚式を例に挙げると、新郎新婦の母親であれば、最も格の高い五つ紋を付けた黒留袖を着用するのがマナーです。そして、新郎新婦の叔母や姉妹であれば、「五つ紋の色留袖」が最適だと言えるでしょう。
結婚式に着物を着用する場合、黒留袖は新郎新婦の母親以外が着ることをあまり好まれないため、それ以外の親族であれば、色留袖を用意すると良いでしょう。三つ紋や一つ紋となると、訪問着と同格になるため、本来ゲストの方が着用して結婚式に出席しても何の問題もありません。しかし、上述したように、『(色)留袖を着用=親族』とのイメージを持っている方も多いので、その辺りは注意する必要があります。
まとめ
今回は、振袖と留袖の違いは?意外と知らない着物の意味についてご紹介してまいりました。いかがでしかたか?
振袖と留袖の違いは、江戸時代の風習が影響していたなんて驚きですね。また、留袖は格式の高いものなのでさまざまな場面で活躍します。しかし、留袖の中にも黒留袖と色留袖では格式の違いや着ることができる場面の違いがあるのでTPOに合わせて使っていきましょう。また、紋の数でも格式を上げたり下げたりのコントロールができるので積極的に活用していきましょう!
着物は、古くからある日本の美しい文化ですので、ぜひ積極的に着物を活用し、どんどん利用される場面が増えてほしいものだと願っています。